飯豊連峰 栂峰











3月15日(月)
雪虫が這いまわる頃は、雪は締まり、樏は不要の物と化するのだが、新雪に樏を締める。山は冬の眠りの醒めやらぬ姿であったが、尾根の一端に登り着けば、除々に日が差し、心は躍る。烏帽子山からの霞み渡る展望を横目に栂峰と面すれば、小さな不安と楽しい期待が交錯する。喘登はザックに落し差ししたピッケルも使わず、田沢地区から来る棒尾根と合わさる1485mに出た。栂峰に目を転ずれば、もっそりとした黒いオオシラビソの群落は、蔵王権現方面に発達させている。また、南方向の岩羽国境尾根沿には、見事なブナ林が彼方へと続くのである。風は吹き荒び、ある物全部を着込む。平頂の一番高い所で弁当を開げれば、一人歩きの心細さと寂しさが頭をもたげてくる。今し方稼いだ山を眺めながら夏道の着く尾根を下れば、村外れの外灯に安堵する。