朝日の沢に思いを馳せて

朝日連峰三面川岩井又沢中俣沢(昭和三十八年八月十五~二十日)

「岩の間から湧き水の如く出る沢」と由来を持つ岩井又沢。「イワイノマタは恐ろしい。孫子の代まであの沢だけは入れたくない」と三面のガイド小池善晴氏はいぅている。(岳人410号)このように悽愴な峡谷の沢を五日間を要して長井山岳会パーティーが完登した。















沢登り心得
谷の美しさは人を谷にひきつける。しかし美しいということだけでつきたとはいへない。これには今一つ重大な因子がある。刹那々々の緊張感である。この味を欠いては谷の魅力の説明が不十分になる。好むと好まざるとに拘らず、危険を冒しても乗り越へなければならぬ滝、釜、岩への挑戦。これが強いて求めたものでなく、自然が通さぬと拒む。その関門の一つ一つを心を緊きしめて突進してゆく挑戦感、その緊張がなければ谷は唯美しいとだけではどうしても説明出来ぬ。特に初めての悪谷に於てをやである。